1.調査・研究の背景
ドライバーのオンデマンドな要求を満たすテレマティックスサービスに代表されるように、統合的なITSサービスの提供を目指す団体や企業にとって、汎用的規格のモデルとそれらを異なる環境で共通に利用できる仕組み・基盤を作ることは、大変意義がある。
特に、現在では、インターネットや携帯電話、携帯端末の普及に伴い、ナビゲーション、経路誘導技術を活用したサービスを、誰もがより簡単に享受できる状況になっている。それに伴い、サービスの応用性やシステム開発効率の向上という課題を解決していくためには、やはり、国際標準化団体であるISO TC204 WG11が中心となって、推進していくべきであると考える。これは、今後のITS市場の熟成に大きく貢献する作業であり、その成果が期待されている。
2.調査・研究の目的
平成14年度より2ヵ年計画で「次世代ナビゲーションシステムメッセージセット規格化の調査研究」の活動を実施している。平成14年度の研究では、研究の中核である「標準化メッセージセットの定義とデータレジストリへの適用」をテーマに、その必要性と効果に関して調査研究を行い、その基盤を確立した。平成15年度は、これらの成果をより具体的な実用分野と照らし合わせて調査研究を行い、下記の2点を目的とした実用化モデルを定義する。
(1)ナビゲーション・経路誘導技術を用いたITSサービスの提供に必要なデータの「汎用的データコンセプト」を導出する。また、ITSのサービスモデル区分とISO WD16914に代表される車載アーキテクチャをベースにしたリファレンス・レイヤー・モデルとの交わりにおいて、汎用的データコンセプトの適用箇所を表した「デザインテンプレート」を定義する。
(2)前述の「汎用的データコンセプト」をデータレジストリ(ISO14817)に登録可能にし、共有・利用を促進することで、ナビゲーション・経路誘導をはじめとする、よりよいITSサービスの実現を支援する。
3.本年度の成果
(1)データコンセプトの抽出
ナビゲーション、経路誘導分野のサービスにおける現状を踏まえて、既存の実験システムのみにとらわれず、商用サービスを調査したうえで、有益と考えられる8つのサービスを、本調査研究の代表的モデルとしてとりあげた。
このサービスモデルをオブジェクト分析することによって、ISO14817のデータレジストリに準拠する汎用的データコンセプトを抽出した。抽出にあたって、UMLによるオブジェクト分析を行ったが、ISO TC204 WG1国際会議での支援を受けて、平成14年度に用いなかったユースケースとオブジェクトクラス関連図を作成した。これにより、そのサービスモデルに必要なデータコンセプトを確実に抽出できた。
(2)デザインテンプレートの作成
ナビゲーション・経路誘導分野をはじめとするITSサービスのためのシステムを開発する際、そのサービスモデルと車載アーキテクチャのリファレンス・レイヤー・モデルの関連するレイヤーが交わる部分に相当するデータコンセプト類をベースとした“デザインパターン”を定義すれば、システム開発の助力になると考えた。
そこで、上記で抽出されたデータコンセプトと、車載アーキテクチャのリファレンス・レイヤー・モデルとの参照記述を用いて、ナビゲーション・経路誘導分野のサービスモデル単位、もしくは、サービスモデル内のミクロなサービス機能単位で活用するためのしくみである“デザインテンプレート”を作成した。これにより、前年度の調査研究と本調査研究の2年にわたるナビゲーション・経路誘導分野におけるサービスモデル・メッセージセットの分析が、データコンセプトの抽出を経て、デザインテンプレートというかたちで結実した。
4.今後の展望
(1)国内データレジストリへの登録
平成15年度の調査研究において抽出したデータコンセプトを、ISO14817に準拠する手順で国内データレジストリに登録する。
(2)デザインテンプレートの充実
平成15年度の調査研究において作成したデザインテンプレートを、さらにバリエーションを増やして多様化させる。これは、より細かくサービスモデルを分類すればするほど、デザインテンプレートの種類は増えるはずであり、少なくとも、ITS分野における基本サービスモデルに対応するほどのデザインテンプレートは必要である。
(3)国際標準化への対応
ISO TC204 WG1では、現在、国際標準の記述言語として使われているASN.1だけでなく、XMLによる記述も検討されている。今後は、データレジストリへの登録内容にXML表記も追加される可能性もあるため、データコンセプト・デザインテンプレートの内容もこれへの対応を検討する必要がある。
(4)実用性評価
本調査研究での成果がナビゲーション・経路誘導サービスのシステム開発に有効利用されるためには、シミュレーションによる実証実験が必要と思われる。この場合、汎用パソコンを仮想車載装置に、ネットワーク上のサーバを仮想サービスプロバイダに見立てて、シミュレーションシステムを構築することが考えられる。そして、このシステムの開発では、本調査研究で導出されたデータコンセプト、デザインテンプレートを活用して、設計を進めることが必要である。これにより、シミュレーションシステムを効率的に開発し、ナビゲーション・経路誘導システムに求められる要求仕様を満足することによって、本調査研究の有効性を実証できると考える。