運転支援システムの信頼性に関する調査研究報告書

平成8年7月に、関係5省庁で策定した「高度道路交通システム(ITS)の全体構想」は、道路交通を一層安全・快適・効率的なものとしながら、環境との調和を促進し、21世紀の経済・社会の技術的な発展を可能にするための主要な前提を示しており、この実現に向けて、関係省庁が協力して推進することが合意されています。また、現在ISOではTC204において、このITS技術についての国際規格化活動が鋭意進められていますが、ITSは公共的機能を基礎に、民間が供給する製品の組み合わせにより実現されると言う特長を有しており、ITSの全体構想の円滑、効率的な実現のためには、公共的観点から長期的に発展プロセスをリードして行く必要があります。このため、各国とも官の強力な指導によって、標準化活動が進められている状況であります

こうした背景の中で、TC204活動における我が国の国際的な発言力を向上させ、TC204対応体制を整備するとともに、規格化のための基礎的情報や知見の確保、充実を行うべく、(財)自動車走行電子技術協会は、平成9年度に引き続き、平成10年度も通商産業省から「ITSの規格化事業」を受託致しました

本調査研究は、ITSにおける自動車の情報化技術、知的走行技術等の円滑、着実な発展を促進するために、自動車の機能、要素技術等の新たな技術開発や、各種の標準化に資するため、上記事業の一環として「平成10年度ITSの規格化事業(ITS車載機器標準化のための要素機能と試験方法に関する調査研究)」を、(財)日本自動車研究所に再委託し、下記の調査研究を実施致しました。
1.走行動作、誘導システム等に関する調査研究(1テーマ)
2.車両走行制御機能に関する調査研究(10テーマ)
3.ヒューマンインターフェースに関する調査研究(2テーマ)

本報告書は、上記の「2.車両走行制御機能に関する調査研究(運転支援システムの信頼性に関する調査研究)」の調査研究内容をまとめたものであり、今後のITSの一層の推進に活用いただけば幸いです

●ITSにおける安全運転支援 ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)は、自動車、道路、交通分野における、エレクトロニクス技術を活用したインテリジェント化システムをいう。ITSは、文字通り“知能化”を意味する。ITSには、これまでにない新しいサービスの実現と、これまで個々の分野では対応しきれなかった、安全、環境、省エネルギーといった問題を解決する有力な手段の一つとして期待が寄せられている。
“安全運転支援”は、このITSの応用分野の一つに位置づけられている。“安全運転支援”が目指すものは、何らかの運転支援・制御システムを自動車に導入し、ドライバーの安全運転を一層高めようとするものである。現在検討が進められているITSシステムアーキテクチャでは、安全運転の支援は、走行環境情報の提供、危険警告、運転補助、および自動運転等の4つの利用者サービスに区分され、更にそれらを細分化した具体的なシステムが定義されようとしている。 安全運転の支援は、道路交通の安全を高めるために、自動車メーカをはじめ、インフラ側からも官民をあげた検討が行われている

●運転支援システム 運転支援システムは、各種の情報提供、運転警報、および運転補助等を通じ、ドライバーを安全に導くシステムをいう。具体的には、ACC (Adaptive Cruise Control Systems) や前方障害物警報装置(Forward Vehicle Collision Warning Systems)などがあげられ、これらの一部はすでに実用化段階にあるものもある。
ASV(Advanced Safety Vehicle:先進安全自動車推進検討会)では、運輸省主導のもと、ITS技術の自動車への応用を目指し、予防安全技術や事故回避技術など6つの技術分野において研究開発が進められている。この中には、ドライバ危険状態警報システムや事故回避システムといった運転支援システムに関係するシステムの安全要件が検討されている。
また、建設省においては、AHS(Advanced cruise-assist Highway Systems:走行支援道路システム)において、情報を提供するAHS-i (Information) 、制御を支援するAHS-c (Control) 、自動走行システムAHS-a (Automates cruise) といったコンセプトが導入され、段階的な研究開発が進められている。 運転支援システムでは、これまでドライバーが行っていた、認知・判断・操作といった運転機能の一部又は全部を何らかの形で支援することになるが、これまで、ドライバーでは見えなかった、道路上の死角の状況を伝えたり、交通状況に応じ迂回路を示したりすることも、ITSならではの支援方法といえよう

●運転支援システムが抱える課題 運転支援システムへの期待は大きく、それだけに課題も多い。運転支援システムが抱える課題の一つは、安全寄与の問題であり、「運転支援システムはドライバーの安全に資するもの」と期待されていることである。ドライバーは、走行中様々な場面で大小の危険にさらされる可能性があり、最悪の場合は事故につながる。運転支援システムは、事故の危険性、事故にいたるプロセスにおいて、ドライバーを安全側に誘導するものである。言うのは簡単であるが、これを実現するためのコンセプトの検討、システム設計は容易ではない。
課題の二つ目は、受容性の問題で、「消費者が気軽にシステムを購入できる環境を整える」ことである。せっかくの運転支援システムであっても、使用するのが複雑で難しいというイメージを与えたり、また、システムの効果対価格が適切なものでなければ、消費者には受け入れられない。運転支援システムは、消費者の興味をそそるものであり、コスト効果に十分見合ったものである必要がある。
課題の三つ目が、システムの信頼性の問題である。ドライバーを支援したつもりであっても、与えた情報や情報の与え方によっては、ドライバーの錯覚を誘発しないとも限らない。このような事態は逆効果であるばかりか、PL上大きな問題となりうる。したがって、システムの目的や機能をドライバーに十分理解してもらうといった対策が必要であり、運転支援システムとドライバーとの適切なヒューマン・マシン・インターフェイスを確保する必要がある

●運転支援システムの信頼性
運転支援システムの信頼性を検討する場合、文字通りこれをシステムとしてとらえ、FMEA (Failure Mode and Effect Analysis) やFTA (Fault Tree Analysis) 等の信頼性予測手法を適用し、必要な部分にフェールセーフ設計や冗長設計等に基づく信頼性設計手法を施していく方法がある。システムの開発・設計においては、こうした信頼性理論に沿った方法がとられることになる。
しかし、上記三つ目の課題にあるように、システムの信頼性に係る技術的課題は、人間とシステムとのインターフェースの在り方という点に移りつつある。すでに、自動車分野に先駆けてエレクトロニクス技術を導入した鉄道や航空分野等でも、ハイテク装置が起こす事故の教訓から、ヒューマン・マシン・インターフェースの問題が大きく取り上げられている。そこで、本研究では、運転支援システムにおける信頼性の確保は、運転支援システムを成立させるための条件の一つと位置づけた上で、“ドライバーと運転支援システムとの在り方”を調査することとする

●法規化・標準化の取り組み
一方、社会制度的には、運転支援システムは安全装置であるとの位置付けで、認証要件の一つに追加し、法的な枠組みをかける動きがある。国連/欧州経済委員会/車両構造部会(WP29)では、このための準備を開始したところである。
また、ISOにおいても、「電気/電子/プログラム可能な制御系に関する安全規格」IEC1508(ISO61508)が制定され、早い段階から安全性への取り組みが行われており、他分野へも展開されているところである。
こうした、法規制や標準化の動向も見定めながら、運転支援システムの信頼性検討のための基礎資料を整理しておく必要がある

●調査研究の目的
以上のような趣旨から、本調査研究は、運転支援システムのうち安全性・信頼性分野の状況・課題を整理し、運転支援システムの在り方を検討することで、本分野における標準化提案項目を探ることを目的とする

1.まえがき
 1.1 調査の背景・目的
 1.2 調査の方法
2.信頼性に関する基本事項の整理
 2.1 電子機器システムの信頼性
 2.2 人間の特性
 2.3 HMI
 2.4 社会システム全体からみた検討の必要性
3.他業界における信頼性への取り組み調査
 3.1 鉄道分野
 3.2 船舶分野
 3.3 航空分野
 3.4 原子力分野
 3.5 宇宙ステーション
 3.6 3章まとめ
4.運転支援システムの在り方に関する検討
5.信頼性に関する法規動向調査
6.信頼性分野の標準化項目の検討
7.まとめ
8.あとがき