研究事業について

H22年度研究テーマ(自主研究)

H22年度研究テーマ(自主研究)

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環境・エネルギに関する研究

研究テーマ 環境大気中の二次汚染物質の測定と動態解析に関する研究
研究内容 微小粒子状物質(以下PM2.5)の環境基準が設定されたが、現状では、国内の多くの地点において環境基準を達成していないと見込まれている。PM2.5の発生源やメカニズムについては不明な点が多く残されており、一次・二次粒子の動態解明や知見の集積は、効果的なPM2.5濃度低減対策を検討するために必要である。
本研究では、高度な質量分析計技術と解析手法を用いることで、二次汚染物質を含む大気中微小粒子の動態をリアルタイムで把握する研究に取り組んだ。これにより、化学反応に伴い生成する二次汚染物質の時々刻々の変化を捉える事が可能になり、従来困難であった二次有機エアロゾル(Secondary Organic Aerosol;SOA)の発生源寄与度を推定することに成功した。また、ディーゼル燃焼由来のSOAが無視できない寄与を示していることが本研究においてはじめて明らかになった。今後は未把握の発生源情報などを充実させることで、より精度の高い発生源寄与度の推定が行え、大気研究における新たな情報を創出できるものと期待される。
研究テーマ 大気予測に関する研究(JATOP)
研究内容 各種発生源対策により、排出源から直接排出される大気汚染物質(一次物質)の大気濃度は。低減が進んでいる。しかし、一次物質が大気中での化学反応により変質した大気汚染物質(二次物質)には、必ずしも改善傾向が見られず、中でも特に、微小粒子(PM2.5)に対して更なる対策が求められている。
JARIでは、経済産業省の委託事業であり、(財)石油産業活性化センター(現;(一財)石油エネルギー技術センター)が実施中の石油および自動車業界の共同研究プログラムであるJapan Auto-Oil Program(JATOP)の大気改善研究に参画し、各種発生源からの排出量データの高度化や、大気汚染物質濃度評価が可能なシミュレーションの構築を進めてきた。
2010年度に、JARI研究員が主体となって実施した研究としては、最新の自動車排出量推計データの構築、エアコン稼動に伴う自動車排出量変化の実態確認、PM2.5を対象とした沿道大気質シミュレーション構築を挙げることができる。これらの研究の結果、JATOPで実施している自動車排出量推計データの改善や大気質モデルによる再現性向上に貢献する結果を得ることが出来た。
研究テーマ 実路及びCHDYにおける仕事量測定調査
研究内容 乗用自動車の燃費性能はシャシダイナモメータ(以下、CHDY)を用いた実験室での試験にて評価されることが多いが、低燃費性能の向上が求められている中、実路における走行状態の再現性がより高いCHDY試験が望まれている。しかし、CHDY試験における実路走行状態の再現性については検討が少なく、明確になっていないのが現状である。
本研究では、実路とCHDYでの走行状態の差異を把握することを目的とし、燃費と相関の高い指標であるホイール仕事(車両が発生する仕事)を調査した。1台の4WD車を用いて実路およびCHDYにて10・15モードの速度パターンを走行してホイール仕事の測定し、比較を行った。また、ホイール仕事の中で大きな割合を占めるタイヤでの損失仕事(以下、タイヤロス仕事)について、タイヤ試験機を用いて調査した。
その結果、10・15モードの速度パターンを実路とCHDYにて走行した場合、今回の車両および試験条件においては、前後輪合計のホイール仕事が実路とCHDYとで一致しない場合があることを確認した。また、ホイール仕事の一致しない要因の1つとして、タイヤロス仕事に着目してタイヤ試験機による調査を行った結果、駆動力、タイヤ表面温度、およびタイヤ垂直荷重によりタイヤロス仕事が異なることが分かった。
研究テーマ 走行中の自動車への非接触給電技術の検討
研究内容 地球温暖化の要因と考えられているCO2ガスの削減のため、現在、自動車の動力源として電気の活用が盛んになり始めているが、電動走行できる航続距離が短い、また、電池積載による車両重量の増加等の課題がある。一方で、充電・給電の分野では、伝送距離も長く、比較的大きな電力の送電が可能と言われている磁界共鳴方式の非接触給電の研究が注目を集めており、アプリケーションの一つとして、電気自動車への充電・給電等も考えられている。
そこで本研究では、電気自動車の課題に対する解決策の一つとして、走行中の自動車に磁界共鳴方式の非接触給電を適用した場合の基礎的な技術課題について検討した。給電用コイルの仕様、給電電力の共振周波数、給電用コイルの配置方法等を変化させた場合の電力伝送効率への影響について調査し、非接触での自動車への給電について知見が得られた。
研究テーマ 再生可能エネルギによる燃料合成に関する研究
研究内容 政府政策として、二酸化炭素削減に向けて、2050年までに温室効果ガス80%削減(1990年比)、2020年までに温室効果ガス25%削減(1990年比)という目標が示されている。排出された二酸化炭素を回収処理する技術としては、火力発電所等から排出される高濃度二酸化炭素を対象とする技術が開発されているが、大気中の低濃度二酸化炭素を対象とした研究開発は進んでいない。
そこで、本研究では、大気中の低濃度二酸化炭素を太陽熱などの再生可能エネルギを利用して濃縮し、液体燃料として合成する技術コンセプトを構築し、低濃度二酸化炭素を濃縮する方法の妥当性を検証するため基礎検討を行った。基礎実験などにより、大気中の二酸化炭素を濃縮する方法を検討したところ、低エネルギで大気中の低濃度二酸化炭素を濃縮するコンセプトが成立することを見出した。

燃料電池・電気自動車に関する研究

研究テーマ 発電状態の燃料電池電極触媒その場観察技術の開発
研究内容 固体高分子形燃料電池の劣化メカニズム解明に向けて、発電状態を模擬した加湿空気雰囲気で透過電子顕微鏡を用いて市販Pt/C触媒をその場観察した。はじめに試料温度300℃において、室温で調整した湿度30%の空気を試料室に導入し、Pt/Cの酸化挙動を観察した。Pt粒子はカーボン担体上でほぼ静止しており、カーボン担体が酸化分解される様子が観察された。さらに観察を続けると、カーボン担体の高次構造が崩壊し、その過程でPt粒子が凝集することが確認された。一方、試料室に湿度90%の加湿空気を導入した場合には、Pt粒子がカーボン担体上を動き回る様子が観察され、この過程で小さなPt粒子は他のPt粒子と衝突・合体することにより成長した。また、カーボン担体は徐々に酸化分解された。これらの結果から、空気の湿度によってPt/C触媒の劣化メカニズムが異なることが示唆された。今回開発した観察方法および実験結果を、電極触媒長寿命化に向けた新たな材料開発や合成プロセスの改善を加速するために役立てたい。

ITSに関する研究

研究テーマ 次世代エネルギー・社会システムへのITS適用に関する調査研究
研究内容 本事業は、今後の自動車社会に対してITSが成すべき事項を抽出し、今後の事業テーマを抽出することを目的に実施した。とりわけ、検討が進む次世代エネルギー・社会システムの中で、車両が関連するITSの果たすべき役割について調査・検討した。
まず、スマートグリッド、省エネルギー、IPv6の普及による社会全体のネットワーク化といったキーワードで社会の新しい動きについて調査した。この結果、社会全体を「見える化」する動きが広がっており、この中で道路環境に関して車載ITSシステムの活用が有効であること、携帯端末の有効活用で適用範囲が拡大できること、大災害時には通信・情報蓄積機能を持った車載システムが有益であることが判った。
これを受けて、従来から研究しているセンタレスプローブ情報システムの適用範囲の検討のための枠組み、携帯端末の車両との連携の課題、国際標準化動向について検討・調査を開始した。
以上の活動の成果を元に、外部4団体(慶應大学、アイシン精機、NECソフト、ITL)と共同で、2010年度に総務省事業「700MHz帯近距離移動体通信を使ったセンタレスプローブの開発」(次項参照)を受託した。
研究テーマ ITS産業動向に関する調査研究
研究内容 VICSやETCは、国の積極的な投資により順調に普及しているが、様々な社会の変化や要請を受け、ITSは新たなフェーズを迎えようとしている。本調査では、こうしたITSの現状を把握し、ITS技術や産業に係る現状と課題、今後の発展の方向等について把握するため、ITS関連企業、関係省庁、関係団体などに対してインタビュー等を行い、独自の分析を加えとりまとめた。
調査項目としては、カーナビ、ETC、安全運転支援システムなど従来の分野の調査を継続するとともに、今後のITS発展の切り口となりそうな分野を加えた。また、最近の景気動向や環境志向に伴い、先行き不透明になっている自動車そのものの市場動向に関しても、今後のITS市場予測の前提となるため検討を行った。具体的にはITSスポットを始め、スマートフォンの台頭やLTEサービスの開始により大きく変化しようとしている自動車の情報化、低炭素社会実現に向けた電気自動車を含めた取組みなどに注目した。この報告書は、関係者に広く配布するとともに、一般にも頒布し、成果・普及に努めた。

予防安全に関する研究

研究テーマ 運転行動分析による認知エラー発生予測と対策案に関する研究
研究内容 車両対歩行者事故(以下、対歩行者事故)における最も顕著な発生パターンの一つに、交差点での右折車両と横断歩道上の歩行者との衝突が挙げられる。本研究では、このような事故の発生原因を把握するために、予防安全研究用ドライブレコーダによって収集された右折場面におけるニアミスデータ分析によって特徴的な事故発生シナリオを抽出した上で、模擬市街路での再現実験を行った。
その結果、横断歩行者の発見遅れに繋がる運転行動の特徴として、右折旋回時における安全確認の早期終了と、それに伴う右折先への注視が見いだされた。さらに、右折開始時に注意喚起情報を提示した場合には、上記の特徴的な運転行動(安全確認の早期終了)が抑制されると共に、横断歩道上の模擬歩行者に対する減速回避開始時の衝突余裕時間が増大することが示された。
研究テーマ ニアミス再現実験車の仕様と再現手法に関する研究
研究内容 近年、交通事故数の削減を目指して、ドライブレコーダに記録された事故やニアミス発生時のデータを分析し、交通事故発生メカニズムを解明するための取り組みがなされている。当研究所では、ニアミスデータ分析にて得られた典型的な事故発生シナリオの再現実験により、危険場面の発生要因を実証的に検討している。その際、現実の事故発生状況に近いシナリオ再現が必要となることから、テストコース等での実車走行実験が望ましい。しかし、実車走行実験を実施する前提として、危険対象とする車両や歩行者などと実際に衝突することがないよう、十分な安全性確保がなされている必要がある。
そこで本研究では、現実感のある危険場面を再現できる実験車両として、ニアミス再現実験車の開発を実施している。ニアミス再現実験車は、実車のボンネット上に液晶モニタを搭載し、前方映像の表示を利用することで運転が可能である。危険場面の再現は、液晶モニタに表示された前方映像上に、コンピュータグラフィクスなどを用いた映像をスーパーインポーズすることにより実現する。今後は、より違和感の少ない危険場面再現手法の検討や、他の再現可能なシナリオについて検討する予定である。
研究テーマ 見通し条件の混合した交差点におけるリスクテイキング行動への影響要因の検討
研究内容 無信号交差点における非優先側ドライバの事故が多いことから、交差点の見通し条件(交差道路の見通せる領域と見通せない領域)による運転行動への影響を検討する必要がある。2009年度は、交差道路沿いに設置した等間隔の並木によって、交差道路の交差点から離れた領域の視界が遮蔽された状況で、交差点に近い領域を目視確認するだけで安全だという誤認識(思い込み)を生じ、衝突リスクを高めることが明らかになった。本研究では、交差点内側に設置した遮蔽壁について、交差道路側と走行道路側の長さを変化させ、これらの見通し条件でも同様の思い込みが生じるか否かを検証した。
実験の結果、本実験の見通し条件でも思い込みを生じることが確認された。また、交差道路側の遮蔽が長い場合、交差点手前から進入までの間、死角が比較的大きいため、主観的危険度は高く見積もられ、減速行動の促進や進入速度の抑制がみられた。一方、遮蔽壁の長さは同様であっても、交差道路側の遮蔽が短く、走行道路側の遮蔽が長い場合、交差点手前時点での死角は比較的小さいため、主観的危険度は低く見積もられ、より思い込みを生じやすく、衝突リスクを高めることが示唆された。
研究テーマ 実交通場面におけるハザード抽出方法の検討
研究内容 日常運転時、運転者は「危ない」と感じる他車を避け、近づかないようにするなど、予想されるリスクを小さくするよう運転していると推測される。本研究は、実交通場面において、運転者が危険を感じる自車以外の交通参加者(ハザード)の映像を記録・解析し、最終的に、ハザード映像を応用した、運転者の危険感受性評価や安全運転教育への応用等を視野に入れている。
2010年度は、2009年度の結果を基にしたハザード映像データベースの見直しと、映像解析のためのツール作成を具体的目標とした。2009年度と同じ協力者に、引き続き、日常運転中のハザード映像の提供を依頼し、今年度取得した映像も含め、合計1620件の映像をデータベース化した。また、データベース映像については、特徴点を指定し、その点の挙動を追跡可能なソフトウェアを開発した。追跡機能の応用により、簡易的に車両の横変位量や車間距離を導出するロジックを検討した。
今後、映像データベースを危険感受性評価指標へ応用するにあたり、映像の提示方法や従来手法との比較検討を行うことが必要である。また、映像解析ソフトウェアについても、精度等についてさらに検討する計画である。
研究テーマ 状況適応的な視覚支援システムの開発に向けた予備的検討
研究内容 走行中のドライバの不注意などに起因した交通事故の削減を図るには、安全走行上、注意すべき車両等に対して情報を提供することによって、ドライバに注意を促すことが有効であると考えられる。本研究では、見落とし、気づきの遅れによる事故防止を目的とした装置の支援タイミング着目し、運転シミュレータによる走行実験を行った。具体的には、ドライバが運転以外の考え事をしながら走行している状態を想定し、交差点進入時における交差車両への注意を喚起する支援を行った場合について、支援タイミングの違いによる運転行動および支援に対する受容性への影響を検討した。
その結果、ドライバの主観評価として、適切と判断する支援のタイミングは、考え事の有無によって異なる可能性があることを確かめた。また、考え事の状態で走行している場合、交差車両との衝突を回避するための運転行動には、大きなばらつきがあるものの、支援タイミングによっては、運転行動のばらつきが抑制され、一貫した危険回避を誘発する可能性があることを確かめた。これらの結果から、支援装置の有効性を高めるには、考え事の有無によって、支援タイミングを調整する必要性が示唆される。
研究テーマ 衝突余裕度を用いたドライバ追突危険状態の評価と対策の検討
研究内容 近年、全車速域に対応する自動的な追従走行や先行車・歩行者との衝突回避を行う運転支援システムが実用化する一方で、ドライバの過信を抑止するデザインやリスク水準そのものを適正化する運転支援も注目されている。本研究では、衝突余裕度に基づいて算出した追突リスク情報の連続表示システムが、ドライバのリスク水準の適正化に効果があるのかを実験的に確認するため、先行車に一定の速度で追従する際のリスク水準を対象に、運転支援システムの有無、運転スタイル(通常、接近)が異なる条件で運転行動を比較した。
その結果、通常の運転スタイルではほとんど注意喚起は発生せず、接近した運転スタイルではドライバが危険と感じる感覚に近いタイミングで注意喚起が発生する点などから、提案したシステムの有効性が確認できた。また、追突リスク情報の表示がリスク水準の適正化に効果のあるドライバと、情報があることでかえって接近しやすくなるドライバに分かれたため、情報提供について改良する必要があると分かった。
今後は、ドライバの自発的な安全運転を促す運転支援形態(情報の種類、情報提供方法など)を実車走行、ドライビングシミュレータ走行を通して検討する。
研究テーマ 小学校における交通安全教育の体系化に向けた検討
研究内容 子どもの交通事故削減、および、将来の優良ドライバの育成を目指して、幼少期からの継続的な安全教育が重要である。本研究では、児童を対象にした各種の安全教育手法を提案・実施し、行動観察調査などからその長所と短所を把握して、学齢段階に応じた安全教育の体系化を目的とした検討を行っている。2009年度は、高学年向けの教育手法として、児童自らが適切な道路横断方法を低学年に教える役割演技法を実施した。その結果、実施した役割演技法は、高学年が安全や他者への配慮を主体的に学習できる可能性を有しているものの、実際に行動が変容するまでには至らないことがわかった。
この問題点を改善するため、2010年度は、役割演技法の実施の前に4回の小集団討論を行い、適切な行動変容が見られるか否かを調査した。行動観察の結果、小集団討論と役割演技法による継続的な安全教育により、児童の横断方法が適切な方向に変容することが示された。また、2010年度は、専門家との研究会により、子どもの交通安全教育の普及促進に係わる課題を抽出した。今後、効果的な安全教育のための条件を把握するとともに、普及促進に向けた課題の解決を図りたい。

衝突安全に関する研究

研究テーマ Head-neck FE model for injury research
研究内容 Despite of the efforts done by the research community, many of the brain injury mechanisms still remain unclear. The lack of progress in the field is caused by the extraordinary complexity of this kind of injuries, including the difficulties to provide diagnosis, localization and quantification of injury extent. To overcome these difficulties, relatively new research fields are bringing some light to the research community. The first of them is the generalization of the use of Computed Tomography (CT) scans and Magnetic Resonance Imaging (MRI) not only to diagnose the injuries, but also for anatomical analysis and comparison, and to develop computer models for injury research. Within the possibilities for computer modeling, Finite Element (FE) models have become the most promising tool for the field. Such models, used properly, may become the cornerstone to clarify brain injury mechanisms and to establish human tolerance limITS.
In this project, the development of a Finite Element Model of the human head from medical images (CT and MRI) was initiated. The geometry of the organs related for injury research were extracted and the validation procedure of the skull has been initiated. In parallel to the development of the model, a new method for the normalization of the human head based on radiological image data was proposed to allow geometrical comparison between different individuals. The method is based on a spherical coordinate system with the origin in the center of gravity of the skull. From the origin, an arbitrary number of measurements of the inner skull, the outer skull, and the scalp are directly taken from the CT images. The proposed method allows a practical solution and a higher accuracy than former normalization methods.
研究テーマ プリクラッシュ時における乗員挙動および保護装置の効果に関する研究
研究内容 衝突安全研究においては、衝突時の乗員姿勢は標準的な着座姿勢を前提としているが、事故の際には衝突直前(プリクラッシュ時)に乗員が回避操作を行い、姿勢が変化することも予想される。志願者を用いた低衝撃実験の結果をもとに作成した人体コンピュータモデルによる解析によれば、ブレーキ制動による姿勢変化の影響により胸部傷害の発生リスクが高くなる傾向が示されており、プリクラッシュ時の姿勢変化が衝突後の傷害になんらかの影響を及ぼすと考えられる。
本研究では、プリクラッシュ時の姿勢変化の影響についてJARIで開発したプリクラッシュ台車より実験的に明らかにし、拘束装置等の効果評価について検討した。ダミーを搭載したプリクラッシュ台車による衝突試験では、ブレーキ制動による姿勢変化により胸部合成加速度が、姿勢変化のない場合(ブレーキ制動無し)に比べて約20%高くなる傾向がみられた。また、制動区間においてベルトに張力を発生させるプリクラッシュシートベルトの効果について検討し、ダミーの姿勢変化を抑制するだけでなく、胸部合成加速度も低減する効果がみられることを確認した。以上より、姿勢変化が乗員衝撃量に及ぼす影響を実験的に示すとともに、拘束装置の効果について検討することができた。
研究テーマ 歩行者の二次衝突(路面等との衝突)の危険性に関する研究
研究内容 これまで自動車と歩行者が衝突する際の歩行者保護対策といえば、主に、自動車の前面部(ボンネット・フェンダー・バンパーなど)の剛性や形状を工夫・改良し、同部に歩行者が衝突した際に、歩行者に傷害が発生することを防止、または、軽減するものであった。しかし、歩行者は自動車の前面部に衝突した後に、自動車の前方等に跳ね飛ばされ、路面等に歩行者の各部位が衝突(以下、「二次衝突」という)する。
本研究では、二次衝突時の歩行者保護対策を促進させることを目的とし、実験的手法やコンピュータシミュレーション解析手法を用いて、同衝突時の危険性の回避・緩和の方法を検討した。
今後も、二次衝突の歩行者保護対策を検討するとともに、同衝突時の歩行者保護対策の促進についても、国内外で提案する予定である。
研究テーマ 被追突時の後遺障害の非経済的損失の評価方法の作成
研究内容 わが国においても交通事故により発生している社会的費用を推計する際に死者の人的費用を支払意思額ベースの原単位を用いて推計する準備が内閣府を中心として進められている。この方針は今後重傷や他の傷害にも波及してゆくと考えられる。本研究は、事故類型で見た場合に事故発生件数の大きな割合を占める追突事故時に発生する被追突車乗員の鞭打ち症のような後遺障害に着目し(後遺障害は治療により症状が必ずしも改善するわけではないため治療の費用である医療費で損失を評価することが適切ではない)、損失の原単位を支払意思額ベースで計測する方法の開発を目的としたものである。
調査法としては、支払意思額を仮想的評価法(CVM)を用いて推計する方法2種類(リスク削減への支払意思額を推計するものと後遺症を完全に回避する治療への支払意思額を推計するもの)と死亡と負傷の限界代替率を標準ギャンブル法により推計し、死亡の損失評価値を用いて間接的に推計する方法の3種類を比較検討した。 調査研究では、約40名を対象とした調査を実施し、各種推計結果に大きな違いが発生することを確認した。研究では最後に、今後の調査法の改善案を検討している。
研究テーマ 交通事故解析手法の検討
研究内容 これまで、官公庁受託テーマにおいて、交通事故鑑定に係わる研修事業を開催し、鑑定実習を行なうための衝突実験を実施してきた。しかしながら、鑑定実習においては、実際の衝突速度と痕跡などから算出した衝突速度に差が現れることがある。このため、衝突速度の算出において精度の良い手法を提案することを目標として本研究を実施した。特に、歩行者事故および自転車事故における四輪車側の衝突速度の算出は極めて難しく、これまでに新たな衝突速度の算出方法を提案されていない。そこで本検討では歩行者事故における解析方法に対して、減速度レベルや制動タイミングなどの制動条件の違いによる衝突速度と飛翔距離の影響をシミュレーションにより考察し、歩行者の飛翔距離と飛翔方向に違いがあることを明らかとした。また、これまでの鑑定実習で収集したデータを整理し、データベースを作成するための開発環境などを調査するとともに、今後の活用方法などを調査した。
研究テーマ 今後の交通事故予測のあり方に関する検討とデータ環境の整備
研究内容 今後の安全対策において各種効果評価の重要性は増してくるものと思われる。しかしながら、効果評価はデータ等のさまざまな制約のもとに実施することが必要となるため現状を踏まえ改善方針を検討してゆくことが重要である。本研究では、安全対策の効果評価、効果予測の質を高めてゆくために必要なことを検討した。
まず、安全対策が実施されている群とされていない群に分けた効果を比較する基本的な方法について課題を整理した。項目としては、群分けの困難さ、安全性の定量化のしやすさ違い(たとえば視界の良さなどは定量化しにくい)、評価指標の妥当性、効果が複数の対策で多重に計測されてしまう問題、について現状を整理した。また、事前評価の際には各種予測が必要となるためその点の課題を整理した。その上で、現状の課題の整理を踏まえて、当面実施可能な対応および将来的に実施すべき改善の方針について考察を行った。
研究テーマ ドライブレコーダ映像の数値データ化方法の開発とその活用方法の検討
研究内容 本研究は、ドライブレコーダの映像から自車両だけでなく、衝突対象となる車両や自転車、歩行者といった衝突対象物の挙動(位置およびそのデータから計算される速度)を計測することを目標としたものである。ソフトウェアの計測アルゴリズムは、ドライブレコーダの焦点距離等のカメラ特性およびドライブレコーダの取り付け高さを所与として、はじめにドライブレコーダの取り付け角度を推計した後に、映像の任意の点(地面と水平面上の点に限る)の座標を推計するものである。
本年度の成果としては取り付け角度の推計法については一定の目処をつけたことと、取り付け角度が既知という条件下でどの程度の挙動計測精度が得られるかを整理した。得られた主な知見としては、画像から計測した速度はドライブレコーダが記録している速度よりも細かいサンプリングレートで計測が可能となるため速度の波形が異なることや衝突対象物の挙動が計測できることを確認したことである。
研究テーマ ドライブレコーダが記録する「危険な場面」を道路交通事故分析に活用する方法の検討
研究内容 本研究は、これまでに作成してきたドライブレコーダにより記録された事故およびニアミスを分類する方法に関連する研究である。これまで、車両対車両データを対象としたニアミス分類法を作成してきたが、本年度は車両対歩行者データを対象とした分類法作成のための基礎的検討を行った。また、今後この分類されたデータを用いて運転の安全性を定量的に評価してゆくことを目標として、デジタルタコグラフのデータの利用可能性について検討を行った。デジタルタコグラフは運行管理を目的として0。5秒刻みで車両の速度データを記録する装置である。これらのデータから運転の安全性を表す指標としてブレーキの強さの加減や巡航時の速度の傾向をどの程度評価できるかを検討した。

社会経済・国際貢献の研究

研究テーマ 国際貢献事業(アジア諸国への政策立案支援)
研究内容 11月2日に北京で2010年中国ラウンドテーブルを開催し、中国の自動車部門における燃料消費量削減への取組みとして中国乗用車燃費規制、および自動車部門からの排出量削減への先駆的な取組みとして北京市の政策について議論した。
中国では2012年から乗用車に対して燃費規制第三段階が導入される予定で、企業平均燃費目標値の導入が検討されている。これは基準に達成しない型式の生産停止という第二段階までの強制的方法を改め、車両全体の燃費向上という前提の下で企業が製品構造の調整を通じて基準の要求を満たすように柔軟性が考慮されていることが評価方法変更の背景となっていることが示された。
北京市の取り組みに関しては、2012年までに排出ガス規制国5が導入される予定となっている。北京市政府は企業と消費者利益の両方に配慮し、自動車産業の発展と環境改善のウィン・ウィンの関係を実現することが考慮され、関係団体の理解を得ながら進められている。
中国の自動車燃費規制、排出ガス規制は、アジア諸国における自動車部門のエネルギー・環境問題への対応策を検討する上で、環境と市場との調整を図りながら、効率的に進める取組みとして非常に有効と考えられる。
研究テーマ アジアにおける大気汚染削減効果分析
研究内容 アジア諸国の自動車関連税は財産税を目的とした考え方となっており、車両価格により税額が変化する。財産税目的であれば、車令が長い、あるいは価格の低い車両ほど税額が安くなる。したがって、環境性能別税制の視点から見ると、車令の長い車が廃棄されにくくなり、汚染物質排出量やCO2排出量の増加に影響を与えていることが考えられる。そこで本研究では、政策導入効果の評価として税制改正とその影響について分析を行った。
経済成長の著しいアジア大都市として、インド、ムンバイを取り上げ、インド特有の取得税から新車を購入しやすい税制に変更した場合の大気汚染削減量を試算した。取得税の変更により、車令の長い乗用車から新車に代替するため、車令別乗用車保有台数分布が変化し、大気汚染物質排出量の低減につながることが示された。
さらに、保有税、燃料税にインセンティブの適用範囲を広げることにより、アジア諸国を対象とした分析に利用可能となることが期待される。
研究テーマ 中国自動車部品産業の実態分析
研究内容 中国は2008年秋以降の世界的金融危機を乗り越えて2009年には自動車の生産、販売台数ともに1、300万台を突破し、自動車生産開始から約50年で世界一を誇る自動車大国となった。今後も自動車生産・輸出規模の継続的拡大、さらに製品の近代化に伴う付加価値の増大ととに中国自動車部品産業の発展が見込まれる。
本事業は、第11次5ヵ年計画をベースにますます巨大化していく中国自動車市場に焦点をあて、世界の部品産業基地を目指す中国自動車部品産業の動向と今後の方向性を検討し、以下について、とりまとめた。
(1)第11次5ヵ年計画と中国自動車部品産業政策
(2)中国自動車部品企業の実態分析
(3)中国自動車部品企業の技術水準分析
研究テーマ 自動車関連データベースの作成
研究内容 2010年の世界自動車販売は、新興国の急速拡大と先進国の緩やかな回復により、2007年に記録した過去最高水準を上回った。中国の自動車販売台数は、2009年に世界最大となり、2010年には米国の過去最高記録1、780万台を抜いており、2011年も成長速度の鈍化はあっても、2、000万台を越えて拡大すると予測される。他の主要新興国においても、2010年は内需経済の好調を背景に販売が拡大し過去最高を更新している。
本テーマでは自動車に係わるデータの収集と、これらのデータを有効に利用できる検索システムを同時に開発している。以下にデータベースの内容を示す。
収集国:約100カ国
データ
自動車関連:生産台数、新車販売台数、保有台数、輸出入台数
        エネルギー消費量(ガソリン、軽油、LPG等)
        年間走行距離
 一般情報:人口、GDP、エネルギー需給量(生産、供給)、セクター別エネルギー需給量
 環境関連:CO2、排出ガス量
研究テーマ 将来における自動車エネルギー分析手法の開発
研究内容 (社)日本自動車工業会(JAMA)、(財)日本エネルギー経済研究所(IEEJ)、JARIが連携して2007年度より、将来自動車技術の実現性などの前提条件を明確化した2050年までの将来自動車技術の省エネルギー・CO2排出削減ポテンシャル、並びにその費用対効果を分析するための方法論とデータベースを内包したモデルCEAMAT(Cost and Effectiveness Assessment Model for Automobile Technologies)の開発を進めてきた。モデル開発当初より、様々なモデルフレームワーク改良、データの更新およびシナリオ分析を行ってきた。
本テーマでは乗用車を対象に、以下の分析を行った。
・内燃機関系車両の燃費改善費用曲線の変更による販売台数内訳の変化
・次世代技術要素のコスト分析に学習曲線を導入することによる販売台数内訳の変化
・EV関連データの変更による販売台数内訳の変化
・分析対象地域拡大のためのインドネシアにおける新車販売台数と電源構成の分析
研究テーマ スウェーデン王立工科大学とのLCA共同研究の準備
研究内容 2010年3月に、スウェーデン王立工科大学(KTH)から、Peter Göransson教授(理工学部航空自動車工学科長)一行がJARIを訪問した。教授は、「ECO2 Vehicle Design」プロジェクトのディレクターを務めている。このプロジェクトは、ECOnomicalとECOlogicalを両立させた輸送機器(乗用車、商用車、鉄道)の最適化デザインを目指すもので、2006年から2016年までの長期プロジェクトである。KTHの航空自動車工学科が中心となり、政府機関、スウェーデンの輸送機器企業(Bombardier、Scania、Volvoなど)がプロジェクトに参画している。
訪問時に、JARIが開発した超軽量EVコミュータ「C・ta」の紹介を行ったが、特に材料・環境評価の面で非常に興味を持っていただき、今後JARIと情報交換をしていきたいという要望された。これを受けてJARIとしてもKTHとのLCA共同研究を進めるべく準備を始めた。
本テーマでは、2010年6月にKTHでセミナーを実施し、その後、関連するLCA基礎データの整理(素材原単位、WTT、車重と燃費の関係)を行った。